康綺堂の本読み備忘録

読んだ本の感想や探偵小説の考察等のブログです。

『岡―村探偵小説案内』の構想について

※※※横溝正史『本陣殺人事件』のトリックについて言及しています※※※

 

 

 

 

昨年の千金では『本陣殺人事件』における実在する探偵小説の言及についての小文「岡-村探偵小説案内(連想編)」を作成した。

現在続編にあたる「本棚編」を執筆中、「真相編」を構想中である。

千金本番までに完成させて持っていきたかったが、2020年の千金は中止となってしまった。

そこで今回は「本棚編」「真相編」のあらすじ(?)についてつらつら書き出してみたい。

 

「本棚編」は一柳三郎の本棚について。

一柳三郎の本棚は金田一耕助が驚嘆するほどの品揃えであり、地の文でも「探偵小説図書館」とも形容されている。この本棚を通して、事件の真相以外に何が見えてくるのか、探ってみたい。

国内作家と海外作家、それぞれのパートで言及されている作家と代表作について解説、

また一柳三郎がどのようにしてコレクションを拡充させていったのかについても可能な限り考察を試みる。

 

「真相編」については特に『本陣殺人事件』の解決パートをメインにネタバレ全開で考察していく。

例えば、『本陣殺人事件』の密室トリックについて江戸川乱歩はホームズ譚のある作品のトリックを発展させたものと評価したが、当の横溝正史本人は、後に江戸川乱歩自身が翻案を書いたある海外作品から『本陣殺人事件』の密室の着想を得ていて乱歩が指摘した作品のことは「気づかなかった」と小林信彦との対談で語っている。『本陣殺人事件』の中で名探偵金田一耕助がその作品について言及しているのに、である。単なる記憶違いなのか、それとも横溝なりの別の意図があったのか。改めて検証する。

そして改めて、横溝正史が『本陣殺人事件』に実在する探偵小説の言及を散りばめた理由についても思いを巡らせてみたい。

 

…………と、こんな感じである。

もちろん「連想編」も加筆修正して再録する。

印刷所に発注して製本するのがいいのか、はたまたコピー本がいいのか、月報風冊子がいいのか、配布とかの方法はどうするか。そっちの悩みも尽きないが、まずは原稿を完成させねば…………。

 

個人的『幽霊男』メモ

※※※横溝正史『幽霊男』「一週間」ピエール・スヴェストル/マルセル・アラン原作『ファントマアガサ・クリスティーABC殺人事件』についてネタバレしています※※※

 

 

 

 

去る24日に横溝オンライン読書会が行われた。お題は『幽霊男』である。開催に先立ち、この作品を改めて再読したのだが、色々思うところがあった。その件について漫然とだが、自分なりに書き出してみたい。

 

 

遺体を「芸術」と称して残忍な形で晒しものにされる、人形職人やマダムXに吸血画家と怪しい人々のオンパレード、広告塔の利用等犯行予告、ボーイに変装して調査にあたる名探偵……横溝正史『幽霊男』のイメージといえばこんな所だろうか。

この作品を初めて読んだのは確か中学2年から3年に上がる春休みだったと思う。

読んでいた当時の天気も合間ってか、ドロドロで怪しい、ミステリよりもオトナなエログロスリラー劇という印象が強かった。

 

今回再読した際に思ったのは、怪人モノの色が濃い目ながらも、キチンキチンと伏線やヒントが所々に張ってあるなということだ。例えば、菊池には奥さんに出ていかれた過去がある等のヒントがさらりと序盤に書かれていたり。女の子をからかい、注意しようとした男を怯ませた幽霊男だが実はこの時に……というような。……事件発生の時間経過や人物の行動の機敏さ等は確かに引っ掛かったが……

また連続猟奇殺人に対して動機を云々することの無力さ、殺人が目の前で起きるのを見てみたいという野次馬心理等、ドキリとさせられる一文が横溝正史一流の文章表現で書き記されているのも印象的であった。

 

通俗スリラーな展開の本作だが、探偵小説としてのトリックやプロットの面では真犯人の動機(真犯人である菊池としては「自分を捨てた妻」と「その妻を恋人とした同じ倶楽部の仲間」への「復讐」が最終目標である。新聞記者・建部健三の「幽霊男による騒動をでっち上げて特ダネ記事を得る」計画を見抜いて自身の隠れ蓑として利用し、絶対安全圏の中から殺人を次々におかす……)を考慮すると本作の構成にあたってはある種の「ABCテーマ」の応用が念頭にあったのではないかとも思えるが、ちょっと……いや、私の勘違いか……?

 

幽霊男の犯行としては、

・ホテルでの事件における「現場で「何かを見たから」殺されたのではなく「何も見なかったから」殺された」という真相

・蝋人形を劇場に運び込む手口(混乱に乗じて金田一耕助や大勢の人々の目の前で大胆に堂々とやる)

の二点が非常に印象的であった。単純といえば単純だが、最初は見抜けず読み返してから「アッ」と驚かされる盲点系が個人的好みだからかもしれない。

 

上述の、建部健三の特ダネでっち上げ計画は、横溝正史による戦前ノンシリーズ短編「一週間」を彷彿とさせる。

事件をでっち上げて特ダネ記事を得る計画を実行するが事態が深刻化し「自分の計画に呪われる」展開……。

「一週間」は場末の新聞社の起死回生策として主人公は心中事件の生き残りである知人に偽装殺人を吹き込むのだが……という展開だった。こちらは、その協力者だったはずの知人に裏切られる展開だったはずだ。

「一週間」は「記者同士の友情」というラストに一抹の救いがあるが、『幽霊男』は何とも言いがたい悲哀と情けなさを感じさせる。

 

その「幽霊男」の産みの親たる建部健三曰く、「幽霊男」という名は小説『ファントマ』をもじったものだという。(実際に読んだとすると、年代からし久生十蘭の翻訳版だろうか。)ファントマとはフランス語で「幽霊」を意味するそうな。

謎の怪人が次々と事件を起こし、探偵を出し抜きながらそれはエスカレートして街の人々を恐怖に陥れる……『ファントマ』自体『ジゴマ』や『アルセーヌ・ルパン』らと共に大衆向け小説のダークヒーローの源流ともいえる存在なので、横溝正史もある程度意識していたろう。

 

ちなみに……

細かく比較するのは果たして、と思うが、気になった点として……

『幽霊男』で中盤から登場する金田一耕助はホテルのボーイに変装していたが、『ファントマ』にも、探偵・ジューヴ警部もホテルの従業員に化けて潜入するシーンがある。

『幽霊男』では事件真っ只中に、幽霊男をモチーフにした舞台が公演され惨劇の場となるが、『ファントマ』第一作では、一連の事件がファントマの逮捕によって解決した後、事件をモチーフにした舞台が公演され、それが結末に待ち受ける大どんでん返しに大きく関わる。

 

以上、思ったことをダラダラとではあるが書き連ねてみた。読書会では様々な意見・感想が飛び交い、本作の奥深さ面白さを改めて再確認した。そう『幽霊男』は奥が深い。その真の正体を見極めきれるまで、その顔の包帯は未だ解けきれていない。

 

参考文献

横溝正史『幽霊男』(角川文庫)

横溝正史ミステリ短篇コレクション4 誘蛾燈』(柏書房)

『定本久生十蘭全集』第11巻(国書刊行会)

ファントマ』(赤塚敬子訳)(風濤社)

赤塚敬子『ファントマ 悪党的想像力』(風濤社)

金田一さんの復員考・メモ

※※横溝正史『獄門島』『犬神家の一族』「殺人鬼」「火の十字架」のネタバレ、トリック言及があります※※

 

まだ少し陽射しは強いし、蝉の声も微かに聞こえるが、風は涼しい。少しずつ確実に秋は近づきつつある。

『獄門島』原作を再読すると、金田一耕助が島を訪れたのは「昭和二十一年九月下旬」とある。ちょうど今くらいの時期だろうか。

数年前から「金田一耕助シリーズと復員」というテーマであれこれ考えを巡らせているが、これがまぁ、いざ文章にまとめようと思うとなかなか難しい。どこから話せばいいか、どうまとめるか等々一筋縄ではいかない。

今回はいくつか上がった項目をメモ程度にまとめて書き出してみようと思う。

 

 

例えばーー

 

金田一耕助に復員者、ひいては戦場経験者としての経歴を持たせたのは、シリーズの仕切り直し(『本陣殺人事件』で言及された戦前期における数々の事件を解決した名探偵としての経歴とかの整理)だけだったのだろうか。

死後硬直の勘を持っている理由づけだけではあるまい、作品発表当時の読者層、世相も意識し寄り添う形に仕立てる向きもあったのだろうか。

 

とか

 

『獄門島』にて船内にて竹蔵が了然和尚へ「鬼頭一が帰ってくるかもしれない」旨のことを話す場面があるが、後々の展開を踏まえた上でこの下りをよくよく読めば、「部隊からではない」「同じ部隊にいるというもん」「一昨日ーーいや一昨々日だったかな」「いずれつぎの便か、つぎのつぎの便で」……と結構あいまいな表現が目立つ。この時点で鬼頭一の生存が必ずしも確定しているわけではないことがわかる。

この点は金田一耕助が鬼頭千万太の死を告げる場面で千万太の直筆の添え書きという物的証拠(本人から伝言を託された確たる証拠)を提示したこと、さらに後の場面で「公報が入った」という旨の了然和尚の台詞(公的機関からの正式発表)としっかりとした「証拠」が固められている点と対称的に見える。

(引用は角川文庫版昭和五十年七月三十日発行第十三版)

 

とか

 

犬神家の一族』は「ある理由から本名や身分を偽る」という点で竹山道雄の『ビルマの竪琴』を彷彿とさせる一面がないともいえない。そういえば『犬神家の一族』連載中の1950年(昭和25年)6月に朝鮮戦争が勃発しているが、そのあたりも横溝正史として思うところはあったのだろうか

 

とか

 

『獄門島』と『犬神家の一族』は裏表の関係だと二上洋一氏が「幻影城増刊」の「横溝正史の世界」で書いておられたが、まさにその通りで、生還した者を巡る疑惑と葛藤という面は更に「車井戸はなぜ軋る」を経て更に磨きあげられたとも思える。

 

とか

 

「殺人鬼」と「火の十字架」は作品の発表も物語の時代設定も10年の開きがあるが、両作とも「復員兵」が絡むトリックと背景が印象的だ。顔をマスクと黒眼鏡で隠した特徴的な姿ーー誰にでも出来る変装ーーを使って捜査を撹乱し、真犯人は目的を果たさんとする……

 

とか。

 

当時の資料とか原作とか色々更なる精査は必要だろうが、うーん……もう少しなんだがなぁ……

2年目の近況

完全に忘れていたが、今年の6月で当ブログは開設2年目を迎えていた。ただその当時、由利先生と吉川晃司フィーバーの真っ只中だったので、仕方がない。

 

さて、最近ついに冊子を作り上げた。

全集の月報風差し込み冊子は昨年の千金に合わせて作成したが、今回はホチキスで止めた本格的な冊子である。これも一重にダイソーからロングタイプのホチキスが発売されたからで、後は内容と続刊の充実化である。

 

基本的に私、康綺堂は機械いじりが大の苦手である。ワードの設定もチンプンカンプンなので、一度パソコンに打ち込んだものを印刷し、別紙に切り貼り、それをスキャンして上手いこと印刷する、という手法を取っている。自分でも「もっとマシな方法があるのでは……!?」と思わないでもないが、今のところ割合上手くいっているので良しとしたい。

 

記念すべき第1巻は「横溝正史夢野久作」という長年追い続けているいくつかのテーマの一つを取り上げた。今後は「金田一耕助の復員考」「岡―村探偵小説案内」「私の長崎ミステリー」等々と繋げていきたい。

 

印刷物といえば、今年の春に開催されるはずが諸事情で長期の延期になってしまった横溝クラスタ北九州オフで配る予定だったフリーペーパーも作成した。紙ベースで作ったが、はて、どうしたものか。

 

ただ、ある方からオススメされた「たくのむ」の利用、あれも面白そうなんだよなぁ……読みたい本も山積みだし。うーん、ヨワッタ。

由利先生!!

 

※ドラマ『探偵・由利麟太郎』について

ややネタバレありなのでご注意下さい!

 

 

 

今回も『探偵・由利麟太郎』について。

 

第3話は『殺しのピンヒール』原作は「銀の舞踏靴」

3人のモデルと事務所の社長、そしてモデルの夫となかなかにギスギスした雰囲気が色々と……。「ピンヒールキラー」が「シリアルキラー」たりえない理由が興味深い。殺人容疑で勾留されてしまった三津木の回想と推理、助手としての活躍ぶりが光る。犯人がピエロの扮装をしているのは「結局自分は道化者」という一種の自虐の現れだろうか。

 

第4・5話は「マーダー・バタフライ」

『蝶々殺人事件』満を持しての登場である。

前3話に比べてミステリー要素が強め。「さくらの幽霊」については多少無理があるように思えるが、現代の大阪・京都を舞台に、スッキリした出来映えになった感がある。

コントラバスのアリバイトリックを簡略化(?)した分、原作を一読した際にはピンとこなかった「動機」にスポットがあたる構成はなかなか。個人的に最良作である。

 

本ドラマ版の由利麟太郎にはまだまだ謎が多い。含むようなラストに、次回作を大いに期待したい。それとDVD・Blu-ray化も。

 

由利先生!

『探偵・由利麟太郎』がスタートした。

「花髑髏」と「憑かれた女」そして「銀色の舞踏靴」を原作とした「殺しのピンヒール」が6月分の放送である。7月には『蝶々殺人事件』を原作とした「マーダー・バタフライ」が前後編で放送予定だ。

 

今この記事を書いている段階では「花髑髏」と「憑かれた女」が放送済み。

個人的な感想としては

 

「花髑髏」……血縁関係等を原作から改編したが、原作とは別の意味で凄まじい形になったという印象。原作もエグい結末だったが、こちらもなかなかエグい。

 

「憑かれた女」……現代的なギミックが、原作における摩訶不思議なトリックを再現可能にしたともとれる。「オリジナルを超えるリメイクはない」という台詞はなかなかに悩ましい。ある人物の設定が設定だけに、三津木俊助の葛藤的なシーンがあれば……とも思ったり。

 

と、こんな感じ。

吉川晃司氏の由利先生がカッコよくてたまらん。志尊淳氏の三津木俊助、田辺誠一の等々力警部もよい感じだ。今回だけに限らず不定期でいいのでまたやってくれんものか、とは言いつつさて残り3話。

どう見せて、魅せてくるのだろう?

今から次の火曜21時が楽しみでならない。

ツイキャス縁起

今年の4月からツイキャスを利用し始めた。

以前からTwitterのタイムラインで度々見かけており、気にはなっていたが、なかなか手が出せずにいた。仲間内から「Skypeを利用した読書会」や「オンライン横溝飲み会」の話が出てくるうち、「じゃあこの際やってみようか」と思い立った次第である。

 

日曜とかのラヂオ番組を多少意識しながら「探偵小説絡みのミョーなハナシ」をする。

テーマを決め、なるべく話の間を空けず、出典等も事前に可能な限りしらべておく、原稿はメモ程度……というのを意識してはいるが、実際やってみると、やはりなかなか結構難しい。しゃべくるのでそるなりに体力も使う。

毎回、自身の未読・不勉強ぶりに頭を悩ます始末。まだまだ修行が足りぬわい……。

 

私個人の語り方のイメージとしては、村下孝蔵氏と稲川淳二氏だったりする。時々広川太一郎氏が入り込むが、あくまでイメージなので、実際のところはなんとも言い難い。

 

ツイキャスに限ったことではないが、仕事をしながらなので不定期……時間と体力気力に余裕がある時に配信、ということになる。このブログと同じく最低でも月1回は……と思ってはいるが果たして。

 

ツイキャスほかブログ、Twitter等々

毎度お騒がせしますが、どうぞ今後とも

よろしくお願い致します。

 

…………さて、過日部屋を掃除していたら

以前書いたままになっていた掌編小説の原稿やメモがぞろぞろ出てきたが…………どうしよう?