康綺堂の本読み備忘録

読んだ本の感想や探偵小説の考察等のブログです。

この時期の短編(御盆編)

この時期になると、市内のあちこちで精霊舟作りの風景を見かける。御盆である。さて、この時期に思い出す短編は……と少し。


まず思い浮かぶのは久生十蘭の「生霊」と「黄泉から」。
両作とも、亡き人へ思いを馳せる話なのだが、「生霊」は狐を名乗る女との邂逅から亡き人の意識と徐々にリンクしていく様が、「黄泉から」は南の島に降りしきった「雪」の正体と闇の中に手をさしのべる最後の一文が、それぞれ心を掴んで離さない。
最初にこの二作を読んだのは、東雅夫編のアンソロジー「女霊は誘う」。「文豪怪談傑作選」シリーズの一冊で短編選昭和編。あまりの見事さに興奮してその夜は眠れなかった覚えがある。この組み合わせは見事としか。そこから、原民喜の短編に圧倒されたものだ。


最近読んだ中では泡坂妻夫の「面影蛍」が、このテーマというか読後の感触では強く印象に残る。
『宝引の辰 捕者帳』の一編。シリーズの常として登場人物の一人称で語られるが、本編は乾物屋の主人が辰親分に語りかける形で話が進む。蛍が取り持った縁に迷信を逆手に取ったような蛍火のトリック。何よりも、哀惜極まりない結末が胸を打つ。
この程創元推理文庫から刊行された『夜光亭の一夜』には収録されておらず、文春文庫から出ていた第四集『朱房の鷹』に収められているのでぜひこの時期に一読をおすすめする次第。


あれはこれは……?いやちょっと違うかと思案は尽きないがこの辺にしておく。
15日御盆は、さだまさしの歌でも知られる長崎市の「精霊流し」の日。