康綺堂の本読み備忘録

読んだ本の感想や探偵小説の考察等のブログです。

金田一さんの復員考・メモ

※※横溝正史『獄門島』『犬神家の一族』「殺人鬼」「火の十字架」のネタバレ、トリック言及があります※※

 

まだ少し陽射しは強いし、蝉の声も微かに聞こえるが、風は涼しい。少しずつ確実に秋は近づきつつある。

『獄門島』原作を再読すると、金田一耕助が島を訪れたのは「昭和二十一年九月下旬」とある。ちょうど今くらいの時期だろうか。

数年前から「金田一耕助シリーズと復員」というテーマであれこれ考えを巡らせているが、これがまぁ、いざ文章にまとめようと思うとなかなか難しい。どこから話せばいいか、どうまとめるか等々一筋縄ではいかない。

今回はいくつか上がった項目をメモ程度にまとめて書き出してみようと思う。

 

 

例えばーー

 

金田一耕助に復員者、ひいては戦場経験者としての経歴を持たせたのは、シリーズの仕切り直し(『本陣殺人事件』で言及された戦前期における数々の事件を解決した名探偵としての経歴とかの整理)だけだったのだろうか。

死後硬直の勘を持っている理由づけだけではあるまい、作品発表当時の読者層、世相も意識し寄り添う形に仕立てる向きもあったのだろうか。

 

とか

 

『獄門島』にて船内にて竹蔵が了然和尚へ「鬼頭一が帰ってくるかもしれない」旨のことを話す場面があるが、後々の展開を踏まえた上でこの下りをよくよく読めば、「部隊からではない」「同じ部隊にいるというもん」「一昨日ーーいや一昨々日だったかな」「いずれつぎの便か、つぎのつぎの便で」……と結構あいまいな表現が目立つ。この時点で鬼頭一の生存が必ずしも確定しているわけではないことがわかる。

この点は金田一耕助が鬼頭千万太の死を告げる場面で千万太の直筆の添え書きという物的証拠(本人から伝言を託された確たる証拠)を提示したこと、さらに後の場面で「公報が入った」という旨の了然和尚の台詞(公的機関からの正式発表)としっかりとした「証拠」が固められている点と対称的に見える。

(引用は角川文庫版昭和五十年七月三十日発行第十三版)

 

とか

 

犬神家の一族』は「ある理由から本名や身分を偽る」という点で竹山道雄の『ビルマの竪琴』を彷彿とさせる一面がないともいえない。そういえば『犬神家の一族』連載中の1950年(昭和25年)6月に朝鮮戦争が勃発しているが、そのあたりも横溝正史として思うところはあったのだろうか

 

とか

 

『獄門島』と『犬神家の一族』は裏表の関係だと二上洋一氏が「幻影城増刊」の「横溝正史の世界」で書いておられたが、まさにその通りで、生還した者を巡る疑惑と葛藤という面は更に「車井戸はなぜ軋る」を経て更に磨きあげられたとも思える。

 

とか

 

「殺人鬼」と「火の十字架」は作品の発表も物語の時代設定も10年の開きがあるが、両作とも「復員兵」が絡むトリックと背景が印象的だ。顔をマスクと黒眼鏡で隠した特徴的な姿ーー誰にでも出来る変装ーーを使って捜査を撹乱し、真犯人は目的を果たさんとする……

 

とか。

 

当時の資料とか原作とか色々更なる精査は必要だろうが、うーん……もう少しなんだがなぁ……