チョコっと小話
去る2月14日はバレンタインデー、バレンタインデーといえばチョコレートである。
チョコっとした小話を少し。
チョコレートを口に含んでウイスキーをちびちびやるのがこの時期の個人的な楽しみなのだが、このやり方をどこで知ったかといえば、江戸川乱歩のエッセイ「酒とドキドキ」なのである。たしか初読は光文社文庫版全集の『わが夢と真実』だったと記憶している。ウイスキーの肴にチョコレート、口の中でウイスキーボンボン気分、という乱歩の食べ方に興味を持ち「ならば」と真似しはじめたのであった。
対して我らが横溝正史。
エッセイ集『真説 金田一耕助』によれば、70年代のブーム真っ只中の時期には角川を通じて「横溝正史先生方」「金田一耕助様」宛にチョコレートが贈られてきていたとか。(「バレンタイン・デーの恐怖」より)そういえば『横溝正史に捧ぐ新世紀からの手紙』収録のCLAMP氏のインタビューに「当時同級生が金田一耕助宛にチョコレートを贈った」旨の記述があった(74ページ上段部分参照)。このエッセイが書かれた時期に数多く贈られていたであろうチョコレートの中にもしかしたら……と妄想もとい想像するのも楽しいエピソードだ。
ところでこのエッセイには当時発生した青酸チョコ事件の話と絡めて、毒入りチョコレートが登場する2作の探偵小説の話も少し記されている。ここで語られている作品は、題名は書かれていないものの、記載されているあらすじで何となく「あの名作か」と察しがつく。自身の作品で幾度か毒入りチョコレートを登場させた横溝正史らしいが、あの場面の元ネタはこれらの作品からだろうか?
その横溝正史と江戸川乱歩が実際当時リアルタイムで読んだのかはハッキリしないが『毒殺六人賦』を読み終えることが出来た。「新青年」昭和9年8月号に掲載されたもので、要するに、アントニイ・バークリーの代表作『毒入りチョコレート事件』の翻案である。その当時の100枚長編……というのは現代だと中編くらいの分量になるのだろうか?調査行の様子が割愛され、各々の推理が章ごとに展開される形になっている。舞台を当時の東京に置き換えているので妙にモダンな雰囲気がほのかに香るような気がしないでもないのが印象的だった。急ぎで読んだので今度またゆっくりと読み直したい。
ちなみに私はいつもチョコレートはビターを選ぶことが多い気がする。あと、たまに食べるビックリマンチョコは、美味い。
今回の参考文献は
江戸川乱歩『わが夢と真実』(光文社文庫『版江戸川乱歩全集』第30巻)
(以下創元推理文庫版)
アントニイ・バークリー『毒入りチョコレート事件』
カーター・ディクスン『白い僧院の殺人』
江戸川乱歩編『世界推理短編傑作集3』