康綺堂の本読み備忘録

読んだ本の感想や探偵小説の考察等のブログです。

読書会本校正補助打ち明け話

 
 風々子さんが発行されている同人誌『ネタバレ全開! 横溝正史読書会レポート集』第一巻と第二巻について打ち明け話を少し。

 横溝正史ファンによる読書会は二〇一六(平成二十八)年から盛んに行われてきた。二〇二〇(令和二)年からは社会情勢の大きな変化により会場での対面方式からオンライン形式で開催された。私は二〇二〇(令和二)年十月にオンライン形式で開催された『幽霊男』の回より参加、可能な限り読後の感想や意見を述べてきた。その読書会のレポートが同人誌という形で刊行されるはこびになり、私は原稿の校正補助として参加させていただき、本づくりのお手伝いをすることが出来た。

 ここでいう校正補助とは、文中での引用個所に明記されているページ数がテキストとなった本(主に角川文庫版)のものと合っているか、ズレや間違いがないかをチェックしていくというもの。私はレポート本第一巻収録分より『獄門島』『不死蝶』『幽霊男』、第二巻『悪魔の手毬唄』『八つ墓村』『黒猫亭事件』の計六作品を担当。読書会レポートで参照された版と同じか刊行がなるべく近いもの(例えば読書会で参照された『不死蝶』が初版なら、手持ちの『不死蝶』から初版に近い版である第十四版)を使い、入念にチェックを行っていく。

「角川文庫の横溝正史シリーズは長年に渡って多数の版が刊行されており、その時々の文字組やレイアウト等の事情の為に版によってはページや文章が大きくずれている場合がある」という話は以前から耳にしていた。引用個所はそう多くはないが、それでもチェック漏れの危険はあるわけで、本業と自身の新刊準備の傍ら締め切りまでに再チェック、再々チェックを重ねた。実のところ、世に出る前の同人誌を関係者の一人として最速で中身を読むことが出来るという喜びよりも、何がしかミスをやらかしてしまうのではないかという恐怖の方が大きかった。普段の私は非常におっちょこちょいであり、うっかりミスを頻発するもので、お世話になっている方々の迷惑になってはならないと慎重に事を進めた。

 第一巻収録分は特に大きなズレなどもなく無事終了、第二巻収録分も『八つ墓村』『黒猫亭事件』は無事終了。残るは『悪魔の手毬唄』だけとなったのだが、ここで問題が発生した。引用個所が一ページほどずれているのである。例えばレポート本の「金田一耕助の素性を知っている」という箇所の引用が461Pとなっているのに手元の本では462Pにある、という風に。

ページのズレが大きいと編集や刊行予定に大きく影響してしまう。私がチェックに使用したのは一九七七(昭和五十二)年三月二十日発行の第二十七版。レポートで参照されているのは一九七四(昭和四十九)年の第十三版。私は主催の方に連絡したうえで、レポート参照本に近い版である一九七四(昭和四十九)年第十二版を入手しチェックを行った。すると、ズレのある箇所がぴったり合うのである。再チェック、再々チェックを行い、主催の方へ報告、ついに作業を終えることが出来たのである。見本誌を受け取った時と販売開始、売れ行きが好調との主催の方のツイートを見た時は本当に嬉しかったものだ。

 さて同じ出版社から刊行されている同じ作者の同じ作品なのに何故ズレが生じているのか。前述のようにその時々の文字組やレイアウト等の都合のためなのだろうが、この『悪魔の手毬唄』角川文庫版第十二版と第二十七版、具体的にはどう違うのだろうか。二冊を何度か見比べているうちにあることに気づいた。文字の詰め具合が第十二版では広く、第二十七版では狭くなっているのである。文字の大きさも第十二版では若干大きく、第二十七版では若干小さく見える。ズレの原因はこれであった。例えば11ページの終わり部分は、第十二版では

 

「わっはっは、ほんとですか、それ」

「ほんともなにも……」

 

 だが第二十七版では

 

「わっはっは、ほんとですか、それ」

「ほんともなにも……」

「そ、そいつは光栄の至りですな、あっはっは」

 大きな掌でつるりと顔をなでながら、満面笑みくずれている磯川警部も、ずいぶん年をとった

 

 となっている。約二行分詰めている様子である。

 他にも、10ページにある章題も第十二版では「一羽の雀のいうことにゃ」第二十七版では「一羽のすずめのいうことにゃ」と漢字部分が平仮名になっていた。前頁を厳密に精査したわけではないが、所々細かい変更がある様子である。

 普段慣れ親しんでいる作品の、普段気が付かない細かい部分の違いを校正補助のお手伝いを通して自身の眼で確かめることが出来た。探究はまだまだ続く。

 

参考文献

風々子『ネタバレ全開! 横溝正史読書会レポート』第一巻・第二巻(同人誌)

横溝正史悪魔の手毬唄』(角川文庫版)