康綺堂の本読み備忘録

読んだ本の感想や探偵小説の考察等のブログです。

偏愛横溝短編の話

先月から、Twitterのスペース機能を利用した風々子さん主催のオンラインイベント『偏愛横溝短編を語ろう』にゲストスピーカーとして参加している。

このイベントはタイトルにもあるように、自分が愛してやまない……すなわち「偏愛」の横溝正史作品について語るというもの。一人一作品、持ち時間は五分。語ったあとは他のメンバーと作品についてのフリートーク、という構成だ。自分自身が語るのもそうだが、他のメンバーがどの横溝作品を取り上げ、偏愛ポイントをどう語るのかも楽しい。

 

これまで二回行われてきたが、私が選んだのは

『執念』(第一回)

『広告面の女』(第二回)

の二作。いずれも戦前期の短編である。

『執念』は、大正15年に発表された短編。ある農村を舞台に、吝嗇家の老婆が家のどこかに隠したという莫大な遺産を巡って老婆の養子夫婦が争う話。先に見つけられてはならぬという疑心暗鬼の心理描写とその当時の田舎の暗闇、あっけない皮肉たっぷりなラストと初期の名短編だと私は思う。

『広告面の女』は昭和13年発表。奇怪な人探しの新聞広告が世間を騒がせる中、平凡なサラリーマンである主人公は、ひょんなことから隣人の秘密を知り、更には好奇心で、この新聞広告を巡る陰謀に自ら飛び込んでいくというあらすじ。短い紙数の中、冒険のスリルが詰め込まれたスピード感溢れる一作だ。

 

横溝正史作品は、柏書房から作品集が続々と刊行されていることもあり、再読を進めていたが、このイベントを通じて再読の幅が更に拡がった気がする。別の視点から紹介される作品の魅力に気付き、さらなる「偏愛」作品の発見に繋がる……なんと素晴らしいことか。

そして、イベントを通じて、新しい横溝正史ファンが増えれば、さらに素晴らしいことである。

 

なお、第三回は、来る10月2日(土)20時00分頃から開催される予定、ぜひお聞き下さい。

 

さて、私は角川文庫版の短編集『双生児は囁く』と『喘ぎ泣く死美人』収録の作品を読み直すか……