康綺堂の本読み備忘録

読んだ本の感想や探偵小説の考察等のブログです。

原稿と感慨 ー横溝正史のジュヴナイル作品

柏書房の『横溝正史少年小説コレクション』は、この記事を書いている段階で5冊目『白蠟仮面』が刊行されたばかりである。

 

横溝正史のジュヴナイル作品といえば、私は角川文庫版で楽しんだものだが、今回改めて、初出・初刊ベースの文章で読み直していると、初読時・再読時には気づかなかった様々な発見があった。現在その発見したことどもの一部を文章に書き起こし、眼鏡犬さんが刊行している同人誌シリーズ『諸氏による横溝ジュヴナイルコレクション』に寄稿している最中である。

原稿執筆の為の取材、として対象作品を再読していると横溝正史自身の他の作品・他の作家の作品が目に浮かぶ場面が多々ある。

「この場面で使われたトリックのルーツはあの作品だろうか」「この人物の名前も、大人向け作品に通じるものがありそうだ」等々。相似の指摘だけで終わらず、ブックガイド的な動きに出来たらいいなとは思うが、やはり難しい。締め切りに追われながら試行錯誤の日々である。

 

現在『青髪鬼』の原稿募集があり、私も寄稿する予定だ。一応テーマは決まってはいるが、「横溝正史のなかでコバルトとはどういうイメージだったのだろう」「短編だと、発明家の兄と妹パターンが多いが発表時の時局みたいなものも絡んでいるのか」等々興味はつきない。眼鏡犬さんの本には最終巻まで寄稿し続ける所存である。

 

それにしても……

私が中学から高校の頃、角川文庫版の横溝正史ジュヴナイル作品は、それはもう貴重な高級品だった。ネット通販は年齢と技術の関係で使えず、一冊手に入れるのも大変で、しまいには探している一冊が夢にまで出てくる始末であった。

それが今、初出・初刊本ベースの文章と挿絵、日下三蔵氏の詳細な解説付きという形で刊行され様々な作品が読めるようになった。

テーマ別収録ということで、新しい視点で彼の日に読んだ作品を読むことが出来る。

しかもTwitterをはじめとするSNSで感想や意見交換が出来る……

なんと喜ばしい、素晴らしいことか!

 

この幸福を噛みしめ噛みしめ、今日もページを繰るのである。