康綺堂の本読み備忘録

読んだ本の感想や探偵小説の考察等のブログです。

幽霊と推進機と簡単な推察

本来は出典とか根拠とか参考文献をキチンと出してキッチリカッチリ書こうと考えていたが、説明がダラダラし過ぎてグダグタになったので、以前からストップしていた下書きを一旦消して、簡単簡潔に書いてスッキリしてみようと思う。

夢野久作の短編に「幽霊と推進機」という話がある。一種の海洋奇談であるがこの話の主人公「私」こと若き日の「元の日活会社長S・M氏」については、実在の人物かそれともモデルがいるのか、ちくま文庫版巻末解題では「不明」とされてるし現在刊行中の国書刊行会版「定本夢野久作全集」にも特に言及はないけれど、話の内容や解題で紹介されている久作の父・杉山茂丸 の交友関係や日活との関わりから察するに、日活の創設に関わった長崎出身の実業家・梅屋庄吉(孫文を支援していたことで有名)ではないか、という推理を以前から立てている。

幽霊の存在認識と脳髄の働きの関係など後年の『ドグラ・マグラ』を思わせる理論を組み込むなど夢野久作らしいアレンジが加えられているが、船の名前やことの顛末等が、梅屋自身が若き日に体験した出来事と大筋が似ていて、船の名前もほぼ同じなのである。「S・M」のイニシャルについては、梅屋庄吉は生前「うめや」を「Mumeya」と表記(日活の母体の一つになった梅屋が経営するMパテー商会のMはこれに由来するという)していたことも今回のヒントになっている。
知人の話を元に自身特有の想像力をもって力作を世に送り出した久作のこと、本人もしくは関係者から聞いた話を元に作品を執筆したのかもとは推察がつくが、果たして。

ちなみに、杉山茂丸梅屋庄吉については、「夢野久作と杉山三代研究会」会報第3号に研究論文が掲載されている。茂丸の交友関係が夢野久作の創作活動にどれほど影響していたのか今後の研究が気になるところであるが、ひとまずこの辺で。