康綺堂の本読み備忘録

読んだ本の感想や探偵小説の考察等のブログです。

歌留多読み手打ち明け話

ありがたいことに評判も良く、また色々と質問を頂くことも多いため、この場で少し覚え書きみたいなものを書いて打ち明け話としたいと思う。

毎年11月に開催される「千人の金田一耕助」通称「千金」では、真備町民館岡田分館にて意見交換会が行われる。地元の方が作ってくれたお弁当を食べ、横溝的四方山話で盛り上がるわけだが、ここではレクリエーションの一環として「横溝いろは歌留多」の大会も実施される。

この歌留多は、かつて千金学会にて提唱された「横溝正史作品をテーマにしたいろは歌留多」を実作化したもので、私は2016年の千金から、恐れ多くも読み札の読手役をさせていただいている。
ただ読み札に書かれていることを淡々と読み上げるのも寂しいのと、もっと横溝正史について語りたいという欲望から、自分の知っている限り、思い出せる限りの蘊蓄小ネタを挟んでみたところ想像以上に好評であったことは真に光栄の至り。

この喋りについては現実にダイブする直前の恰好のワンクッションとして、例えば通勤の途上や日勤夜勤の休憩時間、入浴中に寝る前等にネタだしをしている。時々考えが捗りすぎて寝不足になったりするが……。
原作の再読はもちろん、エッセイや関連書籍、他作家の作品、各ホームページ等を読み漁って取材している。メモするのをうっかり忘れて後日出典を思い出すのにしょっちゅう苦労していたりもするが、それでもそのほとんどは本番では使われない。
年に一度の楽しいイベントで舞い上がった結果、ものの見事にネタを忘れてしまい、終わった後で「あれを言えばよかった」と一人、残念がることしばしばである。
その忘れたネタとはどんなものか。
例えば。

『白と黒』の札
・原型となった各作品と現行版では依頼人に対する金田一耕助の印象描写がだいぶ異なる。
『華やかな野獣』の札
・角川文庫版では収録作品の関係上あたかも「変装」がテーマの作品集のようになっている。
……等々多数。いやはや面目ない。


ところで、自分の中で簡単ではあるが一応のルールのようなものを決めている。
「ネタバレはしない」
「1札1分くらいを目安にして時間を押さないようにする」
横溝正史作品だけでなく、関連する作家と作品も紹介する」
「初心者からベテランまで楽しめる話を念頭に置く」
「ディープな内容のネタ、長くなりそうなネタは学会やブログに廻す」
というふうに。
また歌留多は旧版角川文庫版……杉本一文先生の表紙を使用しているので、
「装画の素晴しさや個人的鑑賞ポイントも触れる」「短篇集では表題作だけでなく他の収録作品も紹介」
そして
金田一耕助の話も少し多めに」
するようにしている。

毎年、心臓をバクバクいわせながら何とか果たし、その後は「緊張して頭の中真っ白」だの何だかんだと答えていたが、いま考えてみれば、イマイチ頼りない我が知恵と知識と力と、そして勇気を振り絞りながら、読み手の務めを何とか果たそうとしていたのである。その根底には、一種のサービス精神もあるのだろうが、我が師・木魚庵さんの
「面白い発見はみんなでシェアした方がもっと楽しいよね」
という教えを自分なりに実践したいとの一念がはたらいていたのだろう。


昨年も、読み札を担当させていただき、皆様からご好評の声をいただけました。これからも、本業の勤務をキチンと果たし、その中で修行を重ねていく所存です。今後の読書の楽しみと読後の発見、千金への参加に繋がれば幸いです。


ちなみに今日7月25日は金田一耕助初登場回が「宝石」誌に掲載された……つまり読者の前に初登場した日。(「宝石」第1巻第4号(昭和21年7月25日発行)『本陣殺人事件』第4回より。)
※掲載誌が実際店頭にいつ並んだのかはハッキリしないが、ここは奥付の発行日を参考に。