康綺堂の本読み備忘録

読んだ本の感想や探偵小説の考察等のブログです。

個人的『壺中美人』メモ

※※※横溝正史『壺中美人』「壺の中の女」についてネタバレしています※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

横溝オンライン読書会、今回は『壺中美人』がテーマである。本作の個人的な感想を、覚書程度に。

 

 

 

 

「壺中美人」こと楊華嬢の正体とその末路が印象的だったが、今回改めて読み返すと、自家用車を利用したアリバイ工作や不倫をはじめとする交錯した人間関係と、盛りだくさんだがややスッキリしない印象を受けた。『壺中美人』は短編「壺の中の女」を改稿、約6倍の増量になっているわけだが、更なる改稿を見込んでいたのだろうか、とふと思った。

 

個人的には、自家用車……ヒルマンとトヨペットを利用したアリバイ工作は、これはこれで別途短編を組むか、 もう少し練り込んだら(発表された当時における)現代的なアリバイトリックになったのではないかとも思ってしまった。

序盤の、何気なく見ていたテレビ中継から

謎解きの重大なヒントを金田一耕助が見いだしていたという伏線は見事で、家庭用テレビという、その当時の最新家電を探偵小説に盛り込むという才覚はいつ読んでも見事である。

 

原型短編「壺の中の女」では「猟奇の徒」と表現されていた金田一耕助が、改稿の『壺中美人』では孤独とメランコリーな一面を見せる人物として描かれているのも興味深い。等々力警部との交流もだが、私生活(朝食とか……)が垣間見えるのもポイントが高いのではないか。それにしても、「いちごクリーム」の正体はいったい何なのだろう。本作、いやシリーズにおける最大の謎といえよう。

 

首を傾げる場面も多々あったが、面白い作品であった。

今後は、金田一耕助が昔読んだという「探偵小説」の正体について調べを進めようと思う。

 

 

参考文献

横溝正史『壺中美人』(角川文庫版)

金田一耕助の帰還』(光文社文庫版)