康綺堂の本読み備忘録

読んだ本の感想や探偵小説の考察等のブログです。

乱歩作品の思い出

昨日28日は江戸川乱歩の命日であった。

普段、横溝正史についてはよく語っているが江戸川乱歩についてはあまり語ったことがないような気がするので、この機会に少し。

 

江戸川乱歩の名は小さい頃に母親から聞かされてはいたが、まだピンと来ていなかった。実際に作品に触れるのは高校に入学する直前くらいの頃。古本屋で買った『ちくま日本文学007 江戸川乱歩』これが初乱歩本であった。『白昼夢』にはじまり『二銭銅貨』『心理試験』『人間椅子』『押絵と旅する男』『鏡地獄』……と代表的な短篇が収録されており、なかでも衝撃的だったのは『屋根裏の散歩者』だった。犯罪遊戯と屋根裏からの覗き、トリックと鮮やかな幕切れよりも、主人公・郷田三郎という「この世に退屈しきった男」というのが何より衝撃的だったのである。この忙しなくて仕方がない世の中に退屈……。当事の私は今と違って江戸川乱歩に関する予備知識はほとんどなかった。それ故、乱歩の前半生と独特の人物造形に気づくはずもなくこの衝撃をもて余していた。

本格的に乱歩作品を読み始めたのは高校に入学してから。通っていた高校の図書室に江戸川乱歩作品がズラリと並んでいたのだが、私が手に取ったのは創元推理文庫版『日本探偵小説全集 第二巻 江戸川乱歩集』であった。理由は『パノラマ島奇談』『陰獣』『芋虫』と三作品連続収録が気に入ったからである。これの少し前に喜国雅彦氏の『本棚探偵の冒険』『本棚探偵の回想』を読んでおり、その中で度々乱歩作品への言及があった。ハッキリと明言されてはいないが、その中でもこの三作品がスコブル面白いらしい。そう感じた私はこの『江戸川乱歩集』を借りて読み始めたのである。結果として、私は江戸川乱歩にハマりこんだ。その後私は光文社文庫版の『江戸川乱歩全集』を買い集めるようになりますますハマりこんだ。作品の「自註自解」も面白く、他の作家と作品にも興味を持つようになったのであった。一方、乱歩作品との出会いは「自分も作品を書いてみたい」という欲求を目覚めさせることになった。当時の拙作原稿は今はもう残ってないけれど、当時所属していた放送部でのシナリオ作り(大会に出品するテレビ・ラジオ番組用が主)にも役立ったし、大変ながらも楽しい作業であった。

思えば私は「本を読む楽しみ」を横溝正史から、「作品を実際に書く楽しさと大変さ」を江戸川乱歩から学んだのである。

 

7月が終わり、8月へ。酷暑ますます厳しくなる折、久々に乱歩作品をひもといてみようか。『白昼夢』と『赤い部屋』にしよう。妖しげな夢まぼろしを垣間見るのだ。